6時間目 動作化を通して、ごんと兵十の心情に迫る
6時間目は、兵十と加助がお念仏に行く場面を中心に読み進めた。
この場面では、ごんが二人の後をつけながら、兵十の様子をうかがっている。
そこで、実際に子どもたちと動作化をしてみることにした。
「かげぼうしふみふみ」など、本文に描かれている行動を身体で表現しながら、登場人物の様子を捉えていく。
文章を目で追うだけではなく、実際に動いてみることで、登場人物の行動や距離感が少しずつ具体的になっていく。
ごんは、どんな気持ちで兵十たちの後をつけているのだろう。
兵十は、どんな思いで加助と話しているのだろう。
動作化を通して、それぞれの心情をなんとなく捉え始めた子どもたち。
そして、兵十と加助の会話を読み進める中で、ある問いが生まれてきた。
ごんは、どうして自分がくりや松たけを届けていることを、兵十に伝えないのだろう。
せっかく兵十のために行動しているのに、そのことを伝えればよいのではないか。
けれども、ごんは伝えない。
なぜなのだろう。
5時間目に生まれたこの問いを、次の時間に深く考えることにした。
7時間目 ごんが伝えられなかった理由を考える
7時間目は、前時に生まれた問いをもとに、ごんの心の中をさらに深く考えていった。
子どもたちの考えを整理していくと、ごんが自分のしたことを伝えられなかった理由は、大きく5つに分かれてきた。
① 元々の悪評と「信じてもらえない」恐怖
まず出てきたのは、これまでのごんの行動が、今のごんを苦しめているという考え。
「前からずっと村の人にいたずらばかりしていたから、そのまま言いに行ってもごんの信用ができない」
「村人にいつもいたずらをしているから、村人に何かされないか心配だった」
「いつもいたずらしているから、うそだと思われ、何かされると思う」
子どもたちは、ごんがこれまで積み重ねてきた行動に目を向けていた。
今、ごんがどんなに兵十のことを思って行動していても、周囲の人々にとって、ごんは「いたずらばかりするきつね」なのだ。
これまでの自分が、今の自分の思いを伝える邪魔をしている。
急に良いことをしても、簡単には信じてもらえない。
そんな、ごんの置かれた状況が見えてきた。
② 「撃たれるかもしれない」という命の危機
次に出てきたのは、火縄銃で撃たれてしまうかもしれないという恐怖だった。
「きつねだ!!と言って撃たれちゃう!?」
「まだ兵十は、ごんがくりやまつたけを置いていることは知らないので、火縄銃で撃たれてしまうかもしれない」
「次見つかったら殺そうと思われているから、次見つかったらくりなどを渡せなくなる」
自分のしたことを伝えたい。
でも、伝えようと姿を見せた瞬間に、撃たれてしまうかもしれない。
そうなれば、兵十のために何かをすることさえできなくなってしまう。
ごんにとって、兵十に近づくことは、いつも危険と隣り合わせだったのかもしれない。
③ おっかあの死という「取り返しのつかない罪」
さらに、子どもたちの考えは、ごん自身の過去へと向かっていった。
「兵十のおっかあは兵十にとって大切な人が死んじゃう大切な時間を無駄にしたから」
「最後の家族のお母さんの命を奪ったのに、そんな命を奪った人を信じるわけがない」
「兵十のお母さんが亡くなる前にうなぎをとってしまって、その前にも悪いことをしているから……」
ごんが兵十のためにくりや松たけを届けるようになった背景には、うなぎをとってしまったことへの後悔がある。
しかし、そのことを悔やんでも、おっかあは戻ってこない。
ごんがどれだけ償おうとしても、取り返すことのできないものがある。
子どもたちは、単に「いたずらをしてしまった」ということだけでなく、兵十にとって大切な家族との時間を奪ってしまったことの重さにも目を向けていた。
単なるいたずらではない。取り返しのつかないことをしてしまった。
その罪の重さが、ごんの心にのしかかっている。
④ 終わらない償いと、見返りを求めない優しさ
ごんは、くりや松たけを届け続けている。
では、ごんは何のために届けているのだろう。
子どもたちからは、こんな考えが出てきた。
「まだ兵十への償いが終わっていなかったから」
「単純に優しかったから」
「単純に優しかったから言わずにあげつづけた」
「つぐないだから、そんな感謝されるべきことじゃないとゴンも思ってた」
ごんは、自分のしたことを認めてほしくて、くりや松たけを届けていたのだろうか。
それとも、兵十の悲しみを少しでも減らしたかったのだろうか。
子どもたちの考えから見えてきたのは、ごんの行動が、単に自分の評価をよくするためのものではないということだった。
ごんにとって、それは償いだった。
だからこそ、感謝されることを求めず、黙って届け続けていたのではないか。
自分のしたことを認めてもらうためではなく、兵十のために何かをしたい。
そんな、ごんの純粋な気持ちが読み取れる。
⑤ そして、最も深いごんの心の中
最後に、子どもたちの考えは、ごん自身の内面へと向かっていった。
「兵十のおっかあを殺してしまって、後悔してて、言っただけじゃ兵十は許してくれないかもしれないし、兵十が許してくれても自分が許せないから」
この考えを読んだとき、ごんが抱えていたものの重さが、より深く見えてくる。
兵十に許してもらえるかどうか。
もちろん、それも大きな問題だっただろう。
けれども、それだけではない。
仮に兵十が許してくれたとしても、ごん自身は自分を許せるのだろうか。
自分のしたことを悔やみ、償おうとし続けても、過去そのものを消すことはできない。
ごんは、兵十に許してもらうことだけでなく、自分自身の罪と向き合い続けていたのかもしれない。
兵十が許すかどうかよりも、ごん自身が自分を許せなかった。
子どもたちの考えから、ごんの心の奥にある後悔が見えてきた。
ごんの心の中で起きていた「感情のせめぎ合い」
ここまで出てきた考えを整理してみると、ごんの中には、相反する気持ちがあったことが分かる。
一方には、兵十に自分のしたことを知ってほしいという気持ちがある。
自分がくりや松たけを届けていることを知ってほしい。
兵十の悲しみを少しでも減らしたい。
しかし、もう一方には、自分の口をふさいでしまう理由がいくつもあった。
これまでの悪評。
撃たれるかもしれないという恐怖。
おっかあの死に関わってしまった罪。
終わらない償い。
そして、自分自身を許せない気持ち。
「知ってほしい」という思いがあっても、簡単には言い出せない。
子どもたちの考えを並べてみると、ごんが抱えていた葛藤が、少しずつ立体的になってきた。
ごんは、ただ臆病だったから言えなかったのだろうか。
ただ、兵十に信じてもらえないと思っていたからなのだろうか。
そうした理由の奥には、取り返しのつかないことをしてしまった後悔と、それでも兵十のために何かをしたいという気持ちがあった。
ごんの行動だけを追っていると、くりや松たけを届ける優しいきつねとして読むことができる。
しかし、ごんの心の中を考えていくと、そこには簡単には割り切れない感情が渦巻いている。
伝えたい。でも、伝えられない。
ごんの心の中で起きていた葛藤を、子どもたちと一緒に考えた7時間目だった。
